大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)76号 判決 1967年7月13日

大阪市旭区上辻町三四番地

原告

隅田利郎

右訴訟代理人弁護士

河村武信

大阪市城東区野江中之町三ノ一五

被告

旭税務署長

白井政男

右訴訟代理人弁護士

井野口有市

右指定代理人

広木重喜

吉田周一

下山宣夫

勝瑞茂喜

右当事者間の昭和四〇年(行ウ)第七六号裁決取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

被告が昭和三九年八月七日付でなした原告の昭和三八年度の所得税について、総所得金額を金一、〇一四、六五九円とする更正決定のうち金六一八七八九円を超える部分はこれを取消す。

原告の請求のうちその余の部分を棄却する。

訴訟費用は全部被告の負担とする。

事実

(当事者の申立)

一、原告の申立

被告が昭和三九年八月七日付でなした原告の昭和三八年度の所得税について、総所得金額を金一、〇一四、六五九円とする更正決定のうち金五一四、六五九円を超える部分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

二、被告の申立

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

(当事者の主張)

一、原告の請求原因

(一)  原告は昭和三九年三月一二日に被告に対し原告の昭和三八年度の所得税について、総所得金額を金四五八、〇〇〇円として確定申告(白色申告)したところ、被告は同三九年八月七日原告の右年度の所得税について総所得金額を金一、〇一四、六五九円とする更正決定をし、その頃原告に通知してきた。

(二)  そこで原告は同三九年九月四日被告に対し右更正決定について異議の申立をしたが、被告は同年一一月三〇日これを棄却したので、原告は同年一二月二六日大阪国税局長に対し右処分について審査の請求をしたところ、同国税局長は同四〇年五月一五日右審査請求を棄却し、その頃その旨を原告に通知してきた。

(三)  しかしながら原告の昭和三八年度の所得税の総所得金額は金五一四、六五九円であり、被告のなした右更正決定のうち右金額を超える部分はその所得がないので違法なものとして取消されるべきである。

二、被告の答弁と主張

(一)  答弁

原告の請求原因のうち第一、二項は認めるが第三項は争う。

(二)  被告の主張

原告は大阪市旭区上辻町三四番地において毛メリヤス編上の下請加工業を営むものであるが、被告は原告の昭和三八年度の所得税について調査したところ、原告の申告所得額と被告が調査した結果判明した所得額が異つたので更正決定をしたのである。

原告の右年度の総所得金額は次のとおり一、一二八、八一九円である。

(1) 収入金額 五、一五一、九三七円

(内訳・上段は取引先下段は収入金額)

(イ)  第一メリヤス株式会社 二、九六三、三六四円

(ロ)  寺井忠メリヤス株式会社 九八三、七二八円

(ハ)  上島メリヤス株式会社 五八三、七六〇円

(ニ)  日東産業株式会社 五一〇、〇三〇円

(ホ)  吉本孝次 一一一、〇五五円

(2) 必要経費 三、九三四、一一八円(詳細別表(一))

うち外註費 二、二七九、三〇八円

(3) 所得金額(事業所得) 一、二一七、八一九円((1)から(2)を控除した額)

(4) 譲渡損失 八九、〇〇〇円(車輛売却によるもの)

(5) 総所得金額 一、一二八、八一九円((3)から(4)を控除した額)

従つて右総所得金額金一、一二八、八一九円の範囲内で総所得金額を金一、〇一四、六五九円とした右更正決定は正当である。

三、被告の主張に対する原告の答弁

被告の主張のうち原告の事業、収入金額中日東産業株式会社を除く各取引先からその主張のとおりの収入のあつた事実、必要経費の額、譲渡損失額は認めるがその余は争う。

日東産業株式会社の分は、原告が同会社から加工を依頼されたものについて更に訴外川東英夫に全く手数料等の利益を得ることなく下請加工させたものであるからその加工賃金五一〇、〇三〇円は原告の収入として加算すべきものではない。仮りに右加工賃金五一〇、〇三〇円を原告の収入として加算すべきものとすれば、それは全額訴外川東に支払われたものであるから右金額を必要経費(外注費)として更に原告の収入から控除すべきである。

(証拠)

一、原告は証人川東英夫、同小林尚弘の各証言ならびに原告本人尋問の結果(第一回)を援用し、「乙第一号証は原本の存在と成立およびその写であること、その余の乙号各証はその成立を認める。」と述べた。

二、被告は乙第一ないし第六号証(但し第一号証は写)を提出し、証人兼岡秀行の証言、原告本人尋問の結果(第二回)を援用した。

理由

一、請求原因第一、二項の事実および原告が大阪市旭区上辻町三四番地において毛メリヤス編上の下請加工業をしていることは当事者間に争がない。

二、そこで原告の昭和三八年度の所得額について検討する。

被告主張のうち収入金額中日東産業株式会社を除く各取引先からその主張のとおりの収入のあつた事実、必要経費の額、譲渡損失額は当事者間に争がない。

そうすると本件における争点は被告主張の日東産業株式会社の分金五一〇、〇三〇円が原告の所得と認められるか否かに帰着する。よつてこの点について判断する

原本の存在成立およびその写であることが当事者間に争のない乙第一号証に証人川東英夫、同小林尚弘の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)によると原告は昭和三七年一二月から同三八年六月までの間日東産業株式会社から婦人物セーター等の編上加工を依頼されたのであるが、かねてから同業者である訴外川東英夫から仕事をさせてもらいたい旨頼まれていたので右会社から加工を依頼されたもの全部を右訴外川東に下請加工させたこと、原告の訴外川東に対する加工賃は原告が従前から右訴外川東と親しくしていた関係等から原告が右会社から受ける加工賃をそのまま支払うことにしていたこと(なお原告は右訴外川東に利益のない下請加工をさせたのは原告として右会社との取引がはじめてで採算がとれるかどうか判らなかつたため、一応訴外川東に仕事をさせたうえ、右会社が取引先としてよければ取引関係を維持してゆきたいという配慮等があつたことによるものであること)、原告は右会社から婦人物セーター等の加工賃として昭和三八年一月から同年七月までの間に金五一〇、〇三〇円を受領し、その全額を右訴外川東に下請工賃として支払つたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠がない。そうすると原告は日東産業株式会社との取引については全く所得がなかつたことになる。

以上の事実にもとづいて原告の総所得金額を算出すると次のようになる。

(1)  収入金額 四、六四一、九〇七円

(内訳)

第一メリヤス株式会社 二、九六三、三六四円

寺井忠メリヤス株式会社 九八三、七二八円

上島メリヤス株式会社 五八三、七六〇円

吉本孝次 一一一、〇五五円

(2)  必要経費 三、九三四、一一八円(詳細別表(一))

うち外註費 二、二七九、三〇八円

(3)  譲渡損失 八九、〇〇〇円

(4)  総所得金額 六一八、七八九円((1)から(2)・(3)を控除した額)

(なお本件口頭弁論の全趣旨から外註費中に前記訴外川東英夫に支払つた金五一〇、〇三〇円が含まれていないことが明らかである。)

三、そうすると被告が原告の昭和三八年度の所得税についてその総所得金額を金一、〇一四、六五九円とした本件更正決定のうち金六一八、七八九円を超える部分についてはその所得が存在しないので違法なものとして取消を免がれないものというべきであり、原告の本訴請求中その余の部分については理由がないので棄却を免れない。

よつて訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 長谷喜仁 裁判官 光辻敦馬)

(別表 (一))

必要経費

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例